OCTとは
OCTとはOptical Coherence Tomographyの略で、光を用いて非接触・非破壊で対象物の断層構造を観察する技術です。2005年ごろから実用化が進んだ技術で、現在では医療診断、特に眼科の検査や心臓血管の術後の観察などで広く使われています。すでに保険診療の対象となっている機器も多くあり、医療現場では最先端の診断装置として必要不可欠なものとなっております。OCTでは光の干渉を用いて、測定物の断層画像を取得します。同じく断層画像を観察する超音波イメージングと比べると、OCTは非侵襲な検査で、医療機器としては患者様への負担を大幅に軽減することが可能です。また、OCTの分解能は、超音波イメージングより1桁以上高い数ミクロンで、微小な構造の観察も可能にします。一方で観察の深達度は観察対象によって制約を受けることがあり、人間の皮膚などではおよそ数ミリメータ、比較的透明な対象物では数十ミリメータの観察深さとなります(図1に人の皮膚のOCT装置による観察事例を示します)。OCTは医用診断の技術として発展してきましたが、近年では非破壊検査のツールとして工業製品のインライン検査など、産業応用でも広がりを見せています。
santecのOCT技術
OCTの歴史は1990 年に山形大丹野教授、1991年にMITのDr. Fujimotoが相次いで論文を発表したことに始まります。1996年には 米Humphrey社により世界初の眼底用OCT装置が販売されました。日本においても普及が進み、2008年には保険適用が認められるようになりました。上述のDr.Fujimotoらの論文で発表されたOCTは、リファレンス光の光路長を時間軸上で変化させ光軸方向の干渉信号を取得する方式で、Time Domain OCT (以後TD-OCT)と呼ばれています。
一方で、周波数軸でデータを取得するFourier Domain OCT(以下FD-OCT)と呼ばれる方式が1995年にウィーン大学のFercherらによって論文により報告されました。この方式はTD-OCT に比べ、感度で100倍以上、速度でも10倍以上の優位性があります。FD-OCTは構成によって、広帯域光源と分光器を用いて干渉信号を取得する方式のSpectral Domain(以下SD-OCT)と、高速の波長走査型光源とそれに同期してデータを取得する方式のSwept Souce OCT(以下SS-OCT)に分類されます。SD-OCTは比較的簡単な構成で実現できる利点がありますが、測定深度や計測速度に限界があります。一方でSS-OCTは画像の取得速度やイメージング深さに優位性があり、ハイエンドな製品を中心に採用が進んでいます。SS-OCTの基本構成を図2に示します。
SS-OCTの光源に要求される主要特性は波長可変幅、コヒーレンス性、掃引速度となりますが、これらの項目はトレードオフとなりがちで、3つの特性を同時に満足する事は、従来技術では極めて困難な課題でした。当社では1987年に世界初の近赤外波長可変光源を製品化し、以降、当社のロングセラーとして波長可変光源TSLシリーズの販売をしてまいりました。この波長可変光源の技術をSS-OCT用光源へ応用し、上述の主要特性の要求をすべて満たす高速波長掃引光源HSLシリーズを2005年に製品化いたしました。続いてHSLを用いたSS-OCTシステムIVSシリーズも2006年に製品化しております。SS-OCTの原理の詳細、各特性に関してはOCTの原理のページをご参照ください。
SS-OCTの応用
SS-OCTはその深い測定深度を活かし、医用分野においては眼科用や循環器用の診断装置に採用されました。当社の医療機器ブランド「movu」より発売されている眼軸長測定器「ARGOS」(図3)も、当社のSS-OCT技術を用いた製品です(詳細はmovuウエブサイトをご参照ください)。
また、OCTは開発当初は医療用の診断技術として発展してきましたが、近年では工業製品のインライン検査など、産業応用でも広がりを見せています。その一つが欠陥検査で、樹脂やガラス製品などの内部の欠陥を、非接触・非破壊で検出します。従来使用されていたX線などと比べると、より高速で、より高い分解能での観察を可能にしています。他にも対象物の膜厚計測や表面形状の測定など様々な分野に応用が可能です。その観察事例の一部をOCT イメージギャラリーのページに示しております。
SS-OCTが製品化されてから約15年経ちましたが、その応用は更なる広がりをみせております。新たな応用分野への適用においては、光源・システムに対してより高い性能が望まれますが、当社は独自のSS-OCT技術の発展を通じて、社会に貢献して参ります。