光を波面で操る液晶技術、LCOS
液晶とは
一般的に、物質の状態は温度が上昇するにつれて固体、液体、気体の3様態をとります。しかし、ある物質は固体と液体の中間の相をとることが、1888年にオーストラリアの植物学者F. ライニッツァーによって発見されました。この中間の相では、物質の様態が液体であるにも拘らず、固体結晶に見られる光学異方性を示すことから、液体結晶、略して液晶と呼ばれるようになりました。
図1に液晶素子の構造を示します。液晶の分子は棒状の形状をしており、固体と違って分子の位置は不規則ですが、その向きは長軸方向に平行に並んでいます。液晶には誘電率異方性と呼ばれる性質があり、電場の中に置かれると電場と平行に分子が並ぶ特徴があります。
今日、液晶の応用として身近となっている液晶プロジェクタ、液晶ディスプレイはこの性質を利用して光を遮断したり透過させたりする事によって表示をおこなっています。
santecの液晶技術
当社では、光応用製品を支えるコア技術として図2に示すように液晶素子の開発製造を行っております。8 インチウェハー対応の製造設備、VA(Vertical alignment)モードによる広視野角と高いコントラスト比、無機配向膜による高い信頼性が特徴です。以下に当社のこれまでの取り組みの一部をご紹介致します。
図2.液晶素子の組立ライン
LCOS空間光変調器
LCOS(Liquid crystal on silicon)は液晶プロジェクタ、リアプロジェクションテレビに使われる、マイクロプロジェクションないしマイクロディスプレイ技術です。
シリコン(Si)基板の上に反射層と液晶を形成した反射型の液晶表示パネルで、液晶を駆動するための配線部やスイッチング素子は、反射層の下側のSi基板上に半導体製造技術により作製するため、継ぎ目のないシームレス性と高い解像度が特徴です。当社では光通信用途をはじめさまざまな応用分野に最適な液晶材料を駆使して他社にないユニークなLCOS空間光変調器を開発しております。
LCOS 基本特性 (位相変調器構成)
1. 位相変調量 (φ)
位相変化量は、波長1550 nmで最大2π rad が得られます。図4に示すように、LCOSの駆動パラメータの変更により(a) π rad と (b) 2π rad が設定できます。LUT (look-up-table) オプション無しでも優れた位相線形性が得られますが、精度の高い線形性が必要な場合は、LUTオプションを適用できます。
図4.LCOSパネルの一動作特性例
2. 応答時間 (τ)
当社LCOSモジュールは、図5に示すように、立下り時の応答時間(90 % ~ 10 %)にて、τ = 236 msが標準です。
図5. LCOSパネルの応答速度
3. 位相安定度 (フリッカー雑音)
一般的なLCOSパネルはビデオフレームレート周期でパネルのちらつきが発生します。これはフリッカー雑音と呼ばれております。図6の青線は一般品の事例です。当社LCOSモジュールは、光通信及び精密測定用途で問題となるフリッカー雑音が最小限になるよう最適設計されております。図6の赤線で示すように、位相安定度は世界最高水準の 0.002 dB 以内の優れた特性を示します。
光通信用液晶素子
外部電場により誘電率異方性が変化する液晶の特徴を利用すると、光の位相、振幅を自由に制御することが可能です。この制御性に着目し、当社では液晶を応用した各種光通信用部品、測定器の開発を進めております。図7に示す光通信用液晶素子はTelcordia規格に準拠した優れた信頼性を有しております。
図8に示す波長ブロッカーは次世代光ネットワークのROADM(Reconfigurable optical add/drop multiplexer)ノードを構成するための光機能モジュールです。入力されたそれぞれの多波長光信号を任意の強度で出力、もしくは遮断する機能を有しており、光強度制御に光信号波長数に相当する数のセグメント電極を持つ反射型液晶素子を使用しています。
次世代ネットワークの光通信で必要となる複雑な波長特性の光フィルタにおいて、従来の光技術では不可能であった対象光信号に応じて波長やスペクトル形状を任意に変えることが出来るスペクトル可変光フィルタをLCOS技術を応用して実現しました。図9に任意波形フィルタを示します。使用したLCOS素子のピクセルピッチ、ピクセル幅、ピクセル数はそれぞれ 5 µm、4.7 µm、2560、液晶駆動電圧階調は12ビット階調で光フィルタの高分解能化に貢献しています。
図9. 任意波形フィルタ